ここは秋葉原駅。
多数の人たちが電車に乗降していく中、一人の少年以上青年未満……いわゆる高校生(十六歳)の男子―里見晴(サトミ・ハル)―が駅のホームに降り立った。
かけている眼鏡の位置を微調整しながらエレベーターで下っていると、秋葉原……通称アキバを象徴するようなマンガやアニメのキャラクターイラストが描かれた巨大な広告看板が目に入る。
アキバに来たと実感したハルは昂揚しつつ、駅の一階に辿り着くと電気街口の改札口を出た。

休日にも関わらず……いや休日だからこそ、大勢の人たちが行き交っている。外国人の姿も多く見かける。個人的な印象だが渋谷に次いで多い気がする。
ハルは取り出したICカード(PASMO)を財布に仕舞うと、ついでに黄色いチケットを取り出した。
チケットには『声優・立花マドカ トークイベント参加券』と記載されている。
ハルが秋葉原に来た理由は、この声優のイベントに参加するためだ。好きな声優に逢えるのだから、普段大人しいハルも少々気持ちが昂っていた。
「よし、ちゃんと忘れて無いな。開始は二時から……。今は、十一時半か……」
アキバは時間を潰すのなら持ってこいの場所だ。パソコンショップ、アニメショップ、本屋、ゲームショップ、アイドルショップ、家電ショップとなんでもござれ。
クールジャパンと囃し立てるゲーム・漫画・アニメや、J-POP・アイドルなどのポップカルチャーが局所的に集まった街である。そういった趣味がある者たちにとっては、ここは楽園……いや、地獄なのかも知れない。
なぜなら色んなものがあり過ぎて、食指がゴムゴムのピストルみたく伸びてしまい、物欲メーターが振りきれることが多々なのだ。欲しいものが有るのに買えない苦しみを味わうことになってしまう。
「いつもの通り“ぽてと”に立ち寄って、昼ご飯はすた丼で……痛っ!」
よそ見した所、何かに衝突してしまった。
すかさずをぶつかったモノを確認すると、目の前に金髪の女性が尻餅をついていたのである。横には大きめの紙やキャリーバックが落ちている。おそらく彼女は地図を見ながら歩いていたために前を行くハルに気づかなかったのだろう。
「あ、だ、大丈夫ですか?」
『Oui、 c'est OK』
聞き慣れない言葉が返ってきた。
見た目から日本人ではない容姿、そして明らかに日本語ではない言葉。外国人であることは間違いだろう。
どう返事すれば良いのかハルは困惑していると、金髪の女性が顔を上げた。
蒼い瞳にきらきらとした金髪は神々しく、見惚れてしまうほどとても可愛く美しい……美少女という言葉が相応しかった。まるでアニメから飛び出してきたような人物。年齢はハルと同じ高校生ぐらいだろうか。
『Si c'est… et japonais…。ダいジョうブ、デす。おキになさらズ』
女性が片言の日本語で答えると、ハルの金縛りが解けた。
「あ、いえ。こちらこそ、すみません。ソーリー……」
相手が外国人だからなのか、思わず単純な英語で言ってしまった。
女性は立ち上がるついでに落とした地図とキャリーバックを拾い上げる。地図は秋葉原案内所で貰える地図だ。
※CM
ぶつかった手前そそくさと立ち去るのも出来ず、ハルは女性を黙って見守っていた。
『I ne se soucie pas……。 そうダ。すみません、おタズねしたいことガあります。いいデすか?』
「えっ!? あ、いいですよ。何ですか?」
『ジつは、さガしているものガありまして。これ、しりませんか?』
そう言うと左手に持っていたスマートフォンの画面をハルに見せた。
画面にはファミコンカセットの写真……しかも、黄金カラーのカートリッジという珍しいものだった。
「これは……」
見覚えがあった。ハルが良く通う……むしろ、今から行こうとしていたレトロゲームショップ“ぽてと”の店棚に飾られているのを見たことがあったのだ。
「知ってますよ。これが……」
美少女は顔をズイッと接近してきた。
『OH! ほんとうデすか! ドこにありますか、それは!』
「ぽ、ぽてと、というゲームショップに……あ、ついでだから、そこまで案内しますよ。そこに行く途中だったので」
『OH! ほんとうデすか! おねガいデきますか!』
太陽のように眩しい笑顔に、ハルは思わず赤面してしまった。
『デは、いきましょう!』
女性はハルの手を取り、率先する。
『C'est juste。 なまえ、いっててなかったデす。わたし、シェリア・テュリオ、デす。よろしくおねガいします。あなたは?』
「僕は、里見晴って…うわわ、ちょっと待って」
『ハル? OK、ハル。いきまショウ!』
こうしてハルは謎の金髪美少女―シェリア―と共に、レトロゲームショップ“ぽてと”を目指すことになったのでした。
-続く-
+注意+
・掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
多数の人たちが電車に乗降していく中、一人の少年以上青年未満……いわゆる高校生(十六歳)の男子―里見晴(サトミ・ハル)―が駅のホームに降り立った。
かけている眼鏡の位置を微調整しながらエレベーターで下っていると、秋葉原……通称アキバを象徴するようなマンガやアニメのキャラクターイラストが描かれた巨大な広告看板が目に入る。
アキバに来たと実感したハルは昂揚しつつ、駅の一階に辿り着くと電気街口の改札口を出た。

休日にも関わらず……いや休日だからこそ、大勢の人たちが行き交っている。外国人の姿も多く見かける。個人的な印象だが渋谷に次いで多い気がする。
ハルは取り出したICカード(PASMO)を財布に仕舞うと、ついでに黄色いチケットを取り出した。
チケットには『声優・立花マドカ トークイベント参加券』と記載されている。
ハルが秋葉原に来た理由は、この声優のイベントに参加するためだ。好きな声優に逢えるのだから、普段大人しいハルも少々気持ちが昂っていた。
「よし、ちゃんと忘れて無いな。開始は二時から……。今は、十一時半か……」
アキバは時間を潰すのなら持ってこいの場所だ。パソコンショップ、アニメショップ、本屋、ゲームショップ、アイドルショップ、家電ショップとなんでもござれ。
クールジャパンと囃し立てるゲーム・漫画・アニメや、J-POP・アイドルなどのポップカルチャーが局所的に集まった街である。そういった趣味がある者たちにとっては、ここは楽園……いや、地獄なのかも知れない。
なぜなら色んなものがあり過ぎて、食指がゴムゴムのピストルみたく伸びてしまい、物欲メーターが振りきれることが多々なのだ。欲しいものが有るのに買えない苦しみを味わうことになってしまう。
「いつもの通り“ぽてと”に立ち寄って、昼ご飯はすた丼で……痛っ!」
よそ見した所、何かに衝突してしまった。
すかさずをぶつかったモノを確認すると、目の前に金髪の女性が尻餅をついていたのである。横には大きめの紙やキャリーバックが落ちている。おそらく彼女は地図を見ながら歩いていたために前を行くハルに気づかなかったのだろう。
「あ、だ、大丈夫ですか?」
『Oui、 c'est OK』
聞き慣れない言葉が返ってきた。
見た目から日本人ではない容姿、そして明らかに日本語ではない言葉。外国人であることは間違いだろう。
どう返事すれば良いのかハルは困惑していると、金髪の女性が顔を上げた。
蒼い瞳にきらきらとした金髪は神々しく、見惚れてしまうほどとても可愛く美しい……美少女という言葉が相応しかった。まるでアニメから飛び出してきたような人物。年齢はハルと同じ高校生ぐらいだろうか。
『Si c'est… et japonais…。ダいジョうブ、デす。おキになさらズ』
女性が片言の日本語で答えると、ハルの金縛りが解けた。
「あ、いえ。こちらこそ、すみません。ソーリー……」
相手が外国人だからなのか、思わず単純な英語で言ってしまった。
女性は立ち上がるついでに落とした地図とキャリーバックを拾い上げる。地図は秋葉原案内所で貰える地図だ。
※CM
秋葉マップ(連合広告ver)を再開することになりました。協賛してくださる企業様&店舗様絶賛募集中です。今回は設置で精一杯だと思うのですが、頑張ってまた案内所を再開させるところまでいきたいので応援してください。
— 秋葉原案内所 (@akiba_guide) 2013, 10月 3
ぶつかった手前そそくさと立ち去るのも出来ず、ハルは女性を黙って見守っていた。
『I ne se soucie pas……。 そうダ。すみません、おタズねしたいことガあります。いいデすか?』
「えっ!? あ、いいですよ。何ですか?」
『ジつは、さガしているものガありまして。これ、しりませんか?』
そう言うと左手に持っていたスマートフォンの画面をハルに見せた。
画面にはファミコンカセットの写真……しかも、黄金カラーのカートリッジという珍しいものだった。
「これは……」
見覚えがあった。ハルが良く通う……むしろ、今から行こうとしていたレトロゲームショップ“ぽてと”の店棚に飾られているのを見たことがあったのだ。
「知ってますよ。これが……」
美少女は顔をズイッと接近してきた。
『OH! ほんとうデすか! ドこにありますか、それは!』
「ぽ、ぽてと、というゲームショップに……あ、ついでだから、そこまで案内しますよ。そこに行く途中だったので」
『OH! ほんとうデすか! おねガいデきますか!』
太陽のように眩しい笑顔に、ハルは思わず赤面してしまった。
『デは、いきましょう!』
女性はハルの手を取り、率先する。
『C'est juste。 なまえ、いっててなかったデす。わたし、シェリア・テュリオ、デす。よろしくおねガいします。あなたは?』
「僕は、里見晴って…うわわ、ちょっと待って」
『ハル? OK、ハル。いきまショウ!』
こうしてハルは謎の金髪美少女―シェリア―と共に、レトロゲームショップ“ぽてと”を目指すことになったのでした。
-続く-
+注意+
・掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
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